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第13話  

10分後…

 ドアをノックする音が聞こえてきた。

 「入れ!村上、お前たちも入れ」田中鷹雄は言った。

 個室のドアが開き、周藤文華、村上洋一、中村薫の3人が入ってきた。

 「まず、皆さんにお知らせしたいことがあります。森岡様と私は、金葉ホテルを4000億円で譲渡することで合意いたしました。周藤部長、手付金の受け取りと領収書の作成をお願いします。取引は1週間以内に完了する予定です」田中鷹雄は3人を見て言った。

 3人は、その知らせを聞いて、それぞれの表情を見せた。

 周藤文華は、全く気にしていない様子だった。彼は田中鷹雄の側近であり、金葉ホテルの財務部長を務めるだけでなく、他の会社でも役職に就いていた。金葉ホテルが売却されれば、むしろ彼の負担は減ることになる。

 村上洋一は、顔面蒼白だった。彼は、田中鷹雄がヘッドハンティング会社から引き抜いてきた、優秀なプロの経営者だった。ここでの仕事は失っても、他の仕事を見つけるのは難しくないだろう。しかし、これほど条件の良い仕事を見つけるのは容易ではない。

 一番喜んでいたのは、中村薫だった。彼女は興奮のあまり、顔が真っ赤になっていた。それがまた、とても魅力的に見えた。

 周藤文華は森岡翔に口座番号を伝え、森岡翔は10%に当たる400億円の手付金を振り込んだ。そして、周藤文華から領収書を受け取った。

 手付金の支払いが完了したことで、この取引はほぼ確定したと言えるだろう。田中鷹雄は、森岡翔を見る目が少し変わった。

 石川俊介の言うとおり、コイツはこれだけの現金を用意してホテルを買収できるということは、きっと、あの隠世一族の出身に違いない。田中鷹雄は、彼らについて詳しく知らない。彼らは謎に包まれており、恐ろしいほどの力を持っていると言われている。ある程度の地位に就かなければ、彼らと接触することすらできないのだ。しかも、彼らは単に金持ちというわけではないようだ。

 その時、森岡翔が言った。「田中社長、私はまだ学生なので、引き継ぎの手続きに時間を割くことができません。中村さんと直接連絡を取ってください。彼女が今後、このホテルの支配人になりますので」

 「周藤部長、森岡様の言うとおりにしてくれ」田中鷹雄は、周藤文華に指示を出した。

 「かしこまりました、田中会長!」

 それから、田中鷹雄は森岡翔に向かって言った。

 「森岡様、これで取引が成立しましたね。私たちはもう友人同士です。田中社長と呼ばれるのは、あまりにも他人行儀なので、私は田中鷹雄と呼んで、あなたより少し年上ですので、甘えさせてもらいまして、鷹雄兄貴とでも呼んでいただければ幸いです」

 「鷹雄兄貴がそうおっしゃるなら、俺のことを森岡様じゃなくて、翔でいいですよ」

 「ははは…よし、翔!やっぱりお前は気持ちのいいやつだ!いつか湖城に来ることがあったら、必ず連絡してくれ。俺も、地の利を生かして、精一杯おもてなしするから」

 「鷹雄兄貴、安心してください。湖城に行くことがあれば、必ず連絡します」森岡翔は言った。

 叔母の娘の美咲は、湖城の大学に通っているはずだ。もしかしたら、鷹雄に頼らなければならない時が来るかもしれない。

 「それでは、翔、今日はこれで。午後に湖城に戻らなければならないので。いいか、湖城に来る時は、必ず連絡しろよ。俺も湖城では、それなりに顔が利くからな」

 「はい、もちろんです」

 田中鷹雄はホテルを後にした。周藤文華と村上洋一も、一緒に出て行った。

 中村薫は残った。これから、目の前にいる信じられないほど若い社長に仕えることになるのだ。

 「薫姉さん、これから、このホテルは頼んだぞ」森岡翔は、中村薫に言った。

 「森岡社長、ご安心ください。必ずご期待に添えるよう、ホテルの経営に尽力いたします」

 金葉ホテル会長室。

 田中鷹雄と村上洋一がいた。

 「村上、もうすぐホテルのオーナーが変わる。もし、お前がここで働き続けたいと言うなら、翔に話をして、支配人は無理でも、部長くらいならやらせてくれるかもしれない」

 村上洋一は、田中鷹雄から部長職を提案され、プライドが傷つく。それに、部長と支配人では、地位も待遇も、到底の差がある。彼は慌てて言った。

 「田中会長、会長が辞められるのであれば、私もここを辞めたいと思います。会長の下で働かせてください」

 「村上、申し訳ないが、今のところ、お前を雇えるような仕事はないんだ。今年の年収分は払うから、他の仕事を探した方がいい。どうだ?」

 「田中会長!私の契約期間はまだ数年残っています!こんな風に、私を見捨てるなんて…」村上洋一は焦りながら叫んだ。

 「村上、ここまで言っても、まだ分からないのか?はっきり言おう。お前がここ数年、何をしてきたか、俺には全てお見通しだ。ただ、まだ俺の許容範囲内だったから、見て見ぬふりをしていただけだ。もし、本気で追及すれば、お前が犯した罪は、それほど重いものではないが、それでも10年か8年は刑務所に入ることになる」

 田中鷹雄の言葉を聞いて、村上洋一は冷や汗が止まらなくなった。ここ数年、彼は自分がしてきたことを誰にも知られていないと思っていた。しかも、年間数百億円もの売上があるこのホテルにとって、自分のやったことなんて取るに足らない金額だと思っていたのだ。まさか、社長にバレていたとは…

 村上洋一は額の冷や汗を拭いながら言った。「田中会長…分かりました。すぐに荷物をまとめて出て行きます」

 「お前も、何年か俺のために働いてくれたんだ。周藤部長に言って、今年の年収分を受け取ってから出て行くといい」

 「ありがとうございます、田中会長!!!」

 村上洋一はそう言うと、部屋を出て行った。

 森岡翔はホテルを出て、スポーツカーを買おうとした。しかし、何軒か店を回っても、気に入った車が見つからなかった。どれも、大量生産された車ばかりで、少し高価な車は在庫がなく、予約が必要だった。

 ノートパソコンと、着替え用のブランド服をいくつか買った後、森岡翔は江南インターナショナルマンションに戻った。

 革張りのソファに横になり、システムを確認した。神豪ポイントが20ポイント増えている。

 宿主:森岡翔

 残高:199999957851979920

 体質:19(弱い)+

 精神力:28(普通)+

 スキル:自動車運転技術(初級)+

 神豪ポイント:20

 体質は19ポイントになったが、まだ弱いの判定だ。

 精神力は、相変わらず28ポイント。

 スキル欄には、自動車運転技術(初級)が追加されている。

 森岡翔は体質に11ポイントの神豪ポイントを割り振った。

 体質は一気に30ポイントになり、弱いから普通に上がった。

 体がジワジワと熱くなっていく。

 1分ほど続いた後、徐々に熱は引いていった。

 森岡翔は精神力に6ポイントの神豪ポイントを割り振った。精神力は28ポイントから34ポイントに上がった。

 すると、頭の中がスッキリとする感覚に襲われた。

 本当に頭が良くなったような気がした。

 残りの3ポイントは、全て自動車運転技術に割り振った。

 すべてを終えると、森岡翔は少し汗ばんでいることに気づいた。28階へ上がり、服を脱ぎ捨てると、澄み切ったプールに飛び込んだ。

 「最高だ!!!」

 森岡翔はプールを何往復か泳いだ後、プールサイドに寝そべりながら、そう呟いた。

 プールサイドに上がると、大きな鏡が目に入った。鏡に近づくと、そこに映っているのは…

 「これが、俺?」

 森岡翔は自分の目を疑った。鏡に映っているのは、確かに自分の顔をしている。しかし、体はまるで別人のようだった。

 以前の森岡翔は、確かにハンサムではあったが、ひょろっと背が高く、180cm近い身長の割に線が細かった。

 しかし、鏡の中の彼は、鍛え上げられた肉体を持って、ひょろひょろとした感じはなく、力強さがみなぎっていた。

 しばらく呆然としていた森岡翔は、我に返ると呟いた。「このシステム、本当に最高だな!」

 新しく買ったブランド服に着替えると、森岡翔は再び大きな鏡の前に立った。鏡に映る彼は、ハンサムな顔立ちにスタイルも良く、まさに、お金持ちのイケメン、誰もが羨む完璧な男だった。

 このルックスなら、ヒモになっても余裕で生きていける!

 森岡翔は、得意げにこう言った。「世の男性諸君、恋人、妹、義理の妹はしっかりガードしておけよ…俺が街に繰り出すからな!ハッハッハ!」

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